監修:青山健一
はじめにマウスピース矯正
マウスピース矯正も日本で少しずつ浸透してきていますが、初めて矯正する人にとっては未知の治療方法なので、今回は実際にマウスピース矯正の矯正治療を始める人がどういう流れで矯正治療を進めていくことになるのかを説明していきます。
1、マウスピース矯正の流れ
①相談
患者さんの主訴、希望、治療の際の優先順位などを細かく聞きマウスピース治療が適しているかどうかを話し合う。
②精密検査用の資料を集める
歯型、レントゲン、写真、噛み合わせなど必要な資料を集める。
③診断(マウスピース矯正の会社に発注)
精密検査の資料をもとに歯を理想的な方向に動かしてみて、治療後の歯並びを予測する。
④診断結果報告
精密検査の結果に基づいて、治療期間、治療方法、治療代等を患者さんと再度、説明確認し、患者さんの同意を得て治療に取りかかる。
⑤治療開始
初めのマウスピースを装着。1~2週間おきにチェックしながら、新しいマウスピースに交換していく。
2、歯を削って矯正で動かすスペースをつくる
マウスピース矯正による矯正治療においては、隣接面のエナメル質を削って、歯を動かしたい方向のスペースを確保して動かしていきます。
この歯を削るということに関して、患者さんの意識と歯科医の意識にとても大きな違いがありますので、この点について説明しておきましょう。
ワイヤーで動かす治療方法では、奥歯を後方や側方に移動してスペースをつくることができますので、歯を動かすスペースをつくるために歯を削る必要はありません。
しかし、マウスピース矯正で奥歯を後方には動かせない場合には、前歯の間にスペースをつくるために、エナメル質を削る必要が出てきます。
エナメル質は、人間の身体の中でどの骨よりも一番硬い部分なので、とても虫歯になりにくい性質を持っているのですが、その箇所を多少削ることによって、急に虫歯になりやすくなったり、将来的にその歯がダメになるような心配は一切ありません(もちろん、あまりにも多くの量を削れば虫歯へのリスクを高めることになります)。
歯は削らないですむならば削らないほうがいいに決まっていますが、歯を多少削ることによって、矯正治療を容易に終わらせることの方がメリットが多いと思う人にとっては、過度に心配するほどデメリットの多いことではありません。
そして、エナメル質を少し削った場合には、必ずフッ素を塗布する習慣をつけて、エナメル質の再石灰化を起こさせるようにするとよいでしょう。
3、マウスピースの装着時間
マウスピースで歯を動かす場合には、原則的にブラッシングのときと食事のとき以外は、ずっとマウスピースを装着してもらうことになります。
マウスピースを長い時間装着しなければ、動いては戻り、動いては戻りの繰り返しになってしまいいつまでも治療は終わりません。
取りはずしが自由にできるということは、逆に言えば、自分の意思で装着し続けなければ、いつまでたっても思いどおりには動かないということです。
4、保定について
矯正治療が終了してから後のことを心配される患者さんがたくさんいらっしゃいます。
患者さんの立場からすると、矯正治療中のこともさることながら、治療が終了した後も、何かめんどくさいことが続くのだったらいやだな、という気持ちが強いのは当然かもしれません。
そして、せっかく矯正治療が終わっても元のように戻ったのでは困るので、どうやってきれいな状態を維持していけばよいのか、とても気になることでしょう。
歯を動かすためではなく、歯を完了時の状態に保つ装置のことを、保定装置といいます。
保定装置には大きく分けて3つあります。
一つ目は、歯の裏側からレジンという合成樹脂とワイヤーで、前歯六本を固定する方法
です
つけっ放しなので入れているときは楽ですが、歯の手入れのときには邪魔になるので、歯が少し汚れやすくなります。また、いつの間にかはずれていたりすると、その歯だけ少し動いてしまう可能性があります。
二つ目は「ホーレーのリテーナー」と言って、入れ歯のようなものを入れて歯を動かないようにすることです
ホーレーのリテーナーは、歯を完全に固定するわけではないので、上下の歯がいい具合になじんで、理想的な噛み合わせになる点ではよいのですが、三次元的には微妙に歯が動いてしまいやすいのと、しゃべりにくいことが大きな欠点です。
そして、この装置は取りはずしができるために、患者さんの十分な協力がないと効果を発揮できません。
三つ目は、透明なマウスピースを入れて、安定するまで装着してもらう方法です
透明なマウスピースは目立たないので、治療終了直後につけていても人から気づかれることはほとんどありません。
この装置は二つ目と同様に徐々に夜だけ装着するように移行していくものです。
このマウスピースも、患者さんがきちんと使用すれば効果があります。
ついつい付け忘れてしまうと歯は戻ってしまいますから、患者さんの心がけで保定効果も違ってきます。
5、歯の漂白にも利用できる
このマウスピースによる矯正治療のメリットとして、歯を動かしながらも、漂白で歯を白くすることも可能です。
これはホームブリーチングと呼ばれる方法で、歯を白くする漂白剤は歯科医院で購入します。
マウスピースの中に入れて装着し、歯を動かす効果とともに、歯を白くする効果が期待できるものです。
矯正をしようと考えておられる方は、歯への美意識が高い方が多いですから、矯正後にホワイトニングを併用される割合はかなり高いです。
☆まとめ
アメリカでは矯正治療をする人の10人に1人は、マウスピース矯正で矯正していて、ハリウッドの映画のイチシーンの一部では、当たり前のようにマウスピース矯正のマウスピースを装着しているシーンが流れているぐらい一般化しています。