歯を抜く矯正治療とその問題点

監修:青山健一

はじめに

矯正相談に行かれると、まず7~8割の歯科医院で抜歯での矯正治療を勧められると思います。今現在も、矯正治療といえば、抜歯矯正の方が主流なのです。

長年、抜歯矯正の患者さんの予後を見ていて、多くの歯科医師が「本当に抜歯矯正が正しいのだろうか??」という疑問を持っています。

抜歯矯正は、あくまでも審美治療の一種で、抜歯矯正と噛み合わせ治療は別物であると思っている歯科医師も少なくありません。
今回は、歯を抜く矯正についての現状と問題点を説明していきます。

矯正歯科治療の現状

1、歯科医院で一般的に行われている矯正治療

なぜ歯を四本も抜くのですか?

歯を抜く矯正治療の場合、一般的には前から四番目の歯(第一小臼歯)を四本抜きます。
たとえ、上の歯並びが悪かったり、右側だけ八重歯のようになっていたとしても、普通は上下四本の第一小臼歯を抜歯します。

それは、左右のどちらか一本だけを抜いた場合には、抜いた方の歯列のカーブだけが反対側に比べて小さくなってしまい、左右が非対称で、不自然な歯列になってしまうからです。
そこで、片側の歯を抜くときは反対側の歯も抜かなければならないのです。

また、片顎(たとえば上顎だけ)二本の小臼歯を抜いて、もう一方の顎の歯を抜かずに矯正治療をした場合には、上下顎の左右の関係は対称にバランスよく並びますが、歯を抜かないほうの片顎は大きい歯列で、歯を抜いたほうの片側は小さい歯列となって上下の噛み合わせがきちんと合わなくなってしまいます。

歯列矯正においては、左右のバランス、上下のバランスの両方が大切なので、どこか一本歯を抜いて治療する場合には、自ずと四本の歯を抜いて治療する方法になってしまうのです。

なぜ歯を抜く矯正治療を行っている医院が多いのか

多くの歯科医院では、なぜ小臼歯などの歯を抜く矯正治療を行っているのでしょうか。その基本的な理由は、「歯科大学では歯を抜く矯正を教えているから」ということになるでしょう。

学校というものは、全国的に同じカリキュラムを定め、それに沿って授業を推し進めます。
当然、国家試験においても、問題内容は統一されます。

一般的に、歯科に関しては、大学病院では、口腔外科などの一部を除いて昔ながらのオーソドックスな治療が行われていて、一部の開業医のほうが新しい最先端の治療を取り入れている場合が多いのです。

ですから、たとえ一部の大学で非抜歯矯正が行われているとしても、急に全国的にカリキュラムが一新するということはまずありえないことです。

インビザラインもほとんどの大学病院では受け入れられていない

それで何十年と教育され続けてきた、小臼歯の抜歯による矯正治療がいまだに主流を占めているのです。
今話題のマウスピースによる矯正治療の「インビザライン」もほとんどの大学病院では受け入れられていないのが現状です

小臼歯を抜歯する矯正治療の流れ

それでは、この小臼歯を抜歯する矯正治療の流れを説明しましょう。
抜歯矯正の治療の考え方は、歯の大きさと顎の大きさのバランスが悪いので、バランスをとるために何本かの歯を抜いて治療していきましょう、という考え方なのです。

矯正ベンチ

一般的には、上下の小臼歯を四本抜いてから治療を開始します。抜いた歯の後方の歯は、なるべく前方に倒れないように、今の位置で維持しようと考えられています。
そして抜いた歯の一本手前の歯(犬歯)を一本だけ、徐々に後方へ動かしていき、その次に前歯四本を同時に後方へ動かしていきます。

抜歯矯正の治療期間は、平均で2~3年かかります

歯を動かすときに気をつけることは、後ろの歯が前方に倒れると噛み合わせが悪くなってしまうので、抜いた歯の後方の歯が前方に倒れてこないように、弱い力で動かしていくということです。

歯の動きも、傾斜的に動かすのではなく歯自体を平行に動かす歯体移動で動かすので矯正期間も抜かない矯正よりも長くなってしまい、抜歯矯正の治療期間は、平均で2~3年かかります

理想的な歯体移動

2、「抜かない」としている歯科医院の実情

抜かないで矯正する歯科医院はその技術をどこで修得しているのか

大学では抜歯矯正を教えているのに、「抜かない」で矯正する歯科医院は、いったいその技術をどこで修得しているのでしょうか。

一般的に言うと、開業している歯科医の技術は、大学で習った内容がベースになっているのではなく、自分の勤務した歯科医院の院長の技術や有料のセミナー等を受講して勉強した知識がベースになっており、そこから各歯科医院の治療技術に差が出てくるのです。

治療するクリニックにおいてかなりの技術差が

とくに歯を動かす矯正治療においては、性質上、さまざまな独自のアイディアが取り入れられやすく、治療するクリニックにおいてかなりの技術差が出てきます
大学を卒業してから、ずっと学校で習った治療を続けられている歯科医の治療法は、はっきり言ってかなり遅れている場合がほとんどです。

開業してもなお勉強している歯科医は、常に新しい知識や技術を修得し、よりよい治療法を求めています。そうしているうちに、同じ大学を卒業して、同じ経験年数を積んでいるにもかかわらず、治療技術に雲泥の差がつくということはよくあることなのです。

今まで抜歯していた歯科医院でも抜かない矯正治療を取り入れるように

矯正治療の際に、小臼歯などの歯を抜いてうれしい人は患者さんにも歯科医にもいません。
しかし、「治療のためには抜歯もしかたない」とあきらめて、患者さんも歯科医も歯を抜いてきていました。

歯を抜いて矯正した場合に、顎関節症になりやすい、後戻りが生じやすいなどいくつかの問題点が指摘され始めて、歯科医の中でも、歯を抜かないで矯正すればこういった問題点が解消するのではないかと考えられ、徐々に歯を抜かない矯正治療が広まってきました。

患者さんとしても、決して歯を抜きたかったわけではないので、現在の歯を抜かない矯正治療の普及がとても喜ばれているのです。
最近では、歯を抜かないで矯正する歯科医院が増えてきて、今まで抜歯して矯正していた歯科医院でも、なるべく抜かない矯正治療を取り入れるようになってきました。

最近では、歯を抜かないで矯正する歯科医院が増えてきて

3、その弊害と問題点

抜歯から非抜歯矯正への急激な変化には、弊害や問題点が

最近の歯を抜かない矯正歯科の普及によって、歯を抜かずに矯正する医院も急激に増え続けています。
しかし、この急激な変化には、弊害や問題点がないわけではありません。

「歯を抜かない矯正」=「よい治療」、「歯を抜く矯正」=「悪い治療」という図式で単純に考えると、大きな問題が発生してきます

私が歯を抜かない矯正治療を勧める最大の理由

私が歯を抜かない矯正治療を勧める最大の理由は、歯を抜かずに治療するほうが、正しい奥歯の噛み合わせをつくりやすいからなのです。
それは、歯を後方や側方に動かすことによって、より正常な顎の位置が確保でき、体調もよくなり、後戻りも少ないからなのです。

それなのに、歯を抜かずに治療しても、奥歯もたいして動かさないで、悪い噛み合わせのまま治療していったのでは、前歯は必ず出っ歯になったり、体調がより悪くなってきます。

したがって、奥歯を後方や側方に動かして、きちんとした噛み合わせがつくられなければ、正しく治療したとは言えません。ですから、抜歯して治療するかどうかは患者さんの希望によって決めるものではなく、どのような噛み合わせをつくるのかという歯科医の考え方によって決定すべきなのです。

メリットデメリットを十分に理解したうえで、最適の治療法を

患者さんが抜きたくないと言ったから歯を抜かないで治療したのであって、治療結果に不満ならば歯を抜きますか? というような対応をする歯科医も出てきています。
治療した結果に問題や不満があるならば、例え歯を抜かないで矯正しても、決して患者さんに喜ばれることはないでしょう。

そういう意味で、診断する歯科医師が抜かない矯正、抜く矯正のメリットデメリットを十分に理解したうえで、最適の治療法をご提案するべきなのです。

☆まとめ

歯を抜かない矯正がいい矯正で、歯を抜く矯正が悪い矯正だと簡単に線引きすることはできません
歯を抜いてもきちんとした治療結果が出ている人もありますし、抜かない矯正で治療しても満足いく結果になっていない方もいることでしょう。

大切なのは患者さんが何を悩まれていて、どんな治療結果を望まれているかという点と歯科医師の診断能力です。
骨格的な口元の前突感が気になっている方に、抜かない矯正をご提案しても満足してもらえないですし、噛み合わせの改善を望まれている方に抜歯矯正をご提案すれば、逆の結果になってしまうこともあり得ます。

そういう行き違いがないように、無料相談で十分納得いくまで話し合いをされることが大切かと思います。

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