矯正相談を行う際に、矯正治療を行うことへのメリットとデメリットについての考えをお伝えします。
矯正相談時に、メリットを伝える際に注意する点として、実際の治療結果と患者さまの期待値に大きな差が出ないように気を付けています。
多くの患者さまは矯正治療後に大きな期待と夢を持たれて来院されます。
矯正治療において、できることとできないことがありますので、患者さまの期待値をあげすぎてしまうと「矯正後にもっときれいになると思っていたのに………」ということになってしまいます。
だからといって、患者さまに期待させないような説明ばかりをしていたのでは、「(この医院で)頑張って矯正治療をしよう!」という気持ちがなくなってきます。
映画を見る際に、前評判が高い映画を観に行く際には大きな期待をして観に行くので、良くて当たり前で、普通だと「面白くなかった!!」ということになってしまいます。
一方、あまり期待をしないで暇だからたまたま時間つぶし感覚で観た映画では、期待値が低い分、普通の映画を見ても「思っていたより面白かった!!」と感じるものです。
評判のいいホテルに泊まる際に、期待値が高すぎると「案外普通のホテルだった!」と思ったり、普通のホテルに期待しないで宿泊したら「案外いいホテルだった!」ということもよくあるものです。
同じものを体験しても、人間の感情は何と比較するかで変わってきます。
「良かった!」とか「満足した!!」というのは自分の期待値と現実を比較して感じるもので絶対的なものではありません。
当クリニックにおいても同じ治療結果でも「大満足!」という方と「不満足」と感じる方がいらっしゃいます。
最終ゴールは患者さまのご希望に添えるように尽力しますが、部分矯正の限界だったり、歯を抜かない矯正の限界だったり、矯正治療自体の限界もありますので、過度の期待をされてしまうと、治療結果に対しての評価も低くなってきます。
これは髪の毛のカットや美容整形においても同様のことが言えるのではないでしょうか?!
矯正相談において、メリットとデメリットの説明の割合を考えていくことはすごく難しい行為になります。
矯正治療を終えられた方の多くが「もっと早くやっておけばよかった!!」ということを言われます。
大半の喜ばれる患者様を目の当たりにすると、「もっと矯正治療のメリットを伝えて矯正治療に対する期待値を上げてあげていたら、もっと早くに矯正治療をすることを決断されたかもしれないのに……」と後悔することがあります。
一方で、治療的には問題ないのに患者様が満足されていない状況を見ると、「患者さまの期待値が実際の治療結果よりも高かったんだ」と思うと、もっとデメリットを伝えて期待値を下げるべきだったのかと反省することもあります。
矯正相談時にデメリットを言うことで患者さまから「良心的」とか「商売っ気がない」とか前向きな言葉をいただく場合と「矯正をやりたくないの?やる気がないの?」とか「自信がないの?」とかマイナスに取られる場合もあります。
矯正治療のデメリットを言うのは、患者さまの為なのか自分を守るためなのかで患者さんへの伝わり方も違ってくるような気もします。
結婚する際に、結婚に夢をもって結婚したいものですが、結婚した後の現実を結婚前にどれぐらい伝えていくものなのかには正解がありません。
結婚することは、人生の一大イベントで大きな決断になってきます。
夢や期待がなければ結婚できませんが、夢だけ抱いて結婚すると結婚後に理想と現実のギャップを感じることにもなりかねません。
「結婚前には両目をあけて、結婚後には片眼をつむって」とか「結婚は人生の墓場」など結婚の夢を破るようなコメントもありますが(笑)、期待して心が動かないと人はなかなか行動には結びつかないものです。
患者様には治療結果には期待してもらいたいが、実際の治療結果以上の期待値を期待されるとトラブルになるのも怖い、という葛藤の元での矯正相談になってきます。
最近ではカスタマーハラスメントといって、「顧客が企業に対して理不尽なクレーム・言動をすること」がニュースで取り上げられることもあるので、そういう患者さまになるかもしれないという恐怖心から、あまり期待値をあげないようになってしまうスタッフも少なくありません。
実際には99.9%の患者さまは一般的な期待値で矯正後にも喜んでいただけますが、できないレベルの要求をされるクレーマー体質の人もいらっしゃるのが現実です。
「患者様に喜んでもらいたいけど、理不尽なクレームは言われたくない」という葛藤の中で仕事をしている人が大半でしょう。
警察官や消防士の方でも、決して「仕事なら死んでもいい」と思って仕事をしているわけでなく、「仕事の使命感と危険との向き合い方」に葛藤しながら働かれているのだと思います。
野球の選手がデッドボールを怖がっていては仕事になりません。
時速150キロ近い球が当たれば死ぬ可能性があっても、デッドボールになる可能性を含めて野球に向き合われているのだと思います。
どの職業の方も、嫌なことやしたくないことはあります。でも使命感や責任感で「やるべきことは遂行したい」という気持ちと葛藤しながら働かれているのではないでしょうか?
そういう意味では、仕事をするということは「覚悟を決めて向き合うもの」だと思います。
当医院は生真面目なスタッフが多いので、どうしてもデメリットを伝えすぎてしまう傾向があるので、そういった視点で矯正相談のメリットとデメリットを聞いていただけると助かります。