目 次
Q.なぜ歯科医院によって治療説明が違うのですか?
Ans.歯科医師の仕事というのは、大学で学ぶ以上に、卒業後にどれだけ勉強したかで全く知識量が違ってくるものなのです。
大学では、殆ど基本的な部分を教えてくれるだけですから、同じ大学を出ていても、治療方法や考え方は全く違うのです。
卒業後に同じ先生の勉強会に出席しても、元のベースが違う先生では、同じ講義でも解釈の仕方が違ってくるのです。
色々な知識や技術を、自分なりにアレンジしながら治療が行われているのです。
いろいろな先生がいろいろな方法の勉強会を開いていますが、A先生の勉強会ではB先生の方法を否定していたり、Bの先生はAの先生の治療方法では治らない、と言っていたりします。
全てにおいて、同じ環境で同じように勉強している人はいないので、先生によって微妙に考え方が違ってくるのです。
歯科治療への評価は患者様にしてもらうしかないので、実際に治療を受けた人の意見が一番正しいと思います。
ラーメン屋さんと似ていますが、同じ店で働いていた人達が、自分のお店を持ったとしても、その人たちは自分なりに工夫をしてスープを造っていきます。
また工夫しないような店は、淘汰されて消えていくと思います。
歯科の世界でも、いろいろな勉強会に出たり、本から知識を得たりして、いろいろな技術や知識を得ることによって、より歯科治療への評価は患者様に満足してもらえるように頑張っているのです。
ですから、同じとんこつベースでも味が違うように、矯正治療や噛み合わせの考え方もいろいろな知識や経験がその人なりにアレンジされているので、まったく同じ考えの人はいないのです。
問い合わせてきた方に、近くの歯科医院を紹介してあげたくても、それが出来ないのは以上のような理由からなのです。
とにかくいくつかの医院に相談に行かれ、自分で判断してもらうしかないのです。
Q.虫歯の治療方法なども医院によって考え方が違うのですか?
Ans.虫歯や入れ歯などの場合は、治療の方法が微妙に違っても、「なぜ歯科医院によって治療方法が違うのだろう」と実感するほどの違いが無いだけで、実はそれぞれの医院で考え方や使用する材料なども違っているのです。
しかし、噛み合わせ治療や矯正治療は、治療方法や治療結果に大きな差があるので、多くの患者様がその違いに気付くのです。
特に噛み合わせ治療の考え方は、いろいろな理論が表れたり消えたりして、まだ統一された理論が確立されていないので、治療する先生によって、大きく考え方が違ってくるのです。
Q.審美治療と矯正治療の違いについて?
Ans.患者様が矯正治療を望む最大の理由は、見た目の歯並びをきれいにしたいということなので、前歯だけをきれいにできればいいと考えるのは当然のことだと思います。
審美治療と割り切って考えれば、前歯だけをきれいにする矯正治療も可能です。
しかし、前歯というのは、不正な奥歯の噛み合わせの結果として見た目がガタガタに悪くなっていることなのですから、奥歯をきちんと治した方が前歯も安定して、後戻りの可能性も少なくなります。
審美治療として、歯を抜いたり削ったりすれば、見た目はきれいになりますし、歯が動いて戻る心配もないので、ワイヤーを使わない前歯だけの治療を希望される場合、矯正治療よりも歯を削って直す審美治療方法のほうが主流になっています。
しかし、奥歯の噛み合わせが悪いために結果として前歯が乱れているのですから、奥歯の正しい噛み合わせを作り、顎を正しい位置に安定させることこそ医療サイドとしては大切なことと考えています。
家が傾いているのに外観だけをきれいにしても、あまり意味のあることとは思えませんよね。
“急がば回れ”といいますが、短期のスパンで見れば、前歯だけの治療や、削ったり抜いてブリッジにする治療の方が早く治療が終わりますから、患者様には喜ばれます。
しかし、10年、20年と長い目で人生を見ていくのであれば、正しい噛み合わせを作ることによって体調もよくなり、治療後の後戻りもなく、前歯もきれいになる、きちんとした矯正治療の方がいいと思います。
人間には、さまざまな価値観がありますので、患者様の希望を第一優先し、それぞれの治療のメリットとデメリットを十分理解してもらって患者様に最終決定してもらうべきだと思っていますので、どの治療を行う場合も、医師は中立の立場で、患者様に自分の知識を知らせていくべきだと思います。
Q.“歯並び”と“噛み合わせ”というのは別のことなのでしょうか?
Ans.一般的に“歯並び”というのは、前歯の外見上のことを言い、“噛み合わせ”というのは、奥歯やあごのずれなど、機能面をさして表現されています。
本来は、外見の美しさと機能的に正常であることは一致していないといけないのに、現在の歯科医療では必ずしも一致していないのです。
審美歯科の治療というのは、見た目を美しくしていますが、機能的には何も変わっていないのです。
むしろ、前より悪くなっていることも多いのです。
矯正治療においても、外見上はキレイになったのに体調が悪くなったりするのは、機能的には正しくないということなのです。
Q.“噛み合わせ治療”と“歯並び治療”は別のことですか?
Ans.一般的なニュアンスして、“噛み合わせ”と言えば、奥歯の歯並びや顎の運動など機能面をイメージし、“歯並び”というと、前歯の見た目など審美面をイメージします。
本来、“噛み合わせがいい”のと“歯並びがいい”のは同じ意味でなければならないのに、外見の治療にばかり重点がおかれ、歯並びはいいけど噛み合わせは悪いということが生じていました。
前歯だけを削って被せてきれいに見せる審美治療というのは、ここでいう歯並び治療の典型であって、噛み合わせ治療では断じてありません。
今までは、矯正治療でも、歯と顎の大きさが合わないために歯並びが悪くなるので、前歯のみをきれいに並べて奥歯は前方へ倒れないようにそのままの位置を維持するという治療が主流でした。
しかし、現在は、奥歯の噛み合わせが悪いから、結果的に前歯の歯並びが悪くなってしまうのだという考えが注目を浴びるようになってきました。
したがって、歯並びが悪くなる根本的な原因である奥歯の噛み合わせを正しく治せば、歯を抜かないで、前歯もきれいに並ぶという考え方が出てきました。
こういう考え方が歯科界に定着するようになれば、“噛み合わせ治療”と“歯並び治療”が同じ意味になる日もやってくると思います。
Q.矯正治療のメリットを教えて下さい
Ans.歯列矯正を希望する方の中で最も多い理由は「見た目をきれいに、かっこよくしたい」というものです。
しかし、噛み合わせが悪いということは外見だけの問題ではないのです。
それは、体全体の健康にとても多大な影響を与えているのです。
考えられる噛み合わせ不良のデメリットをあげてみます。
矯正治療によってこれらが解消されます。
1.顎がズレることによって、顎関節症を起こしやすい
噛み合わせが悪いために、口が開けにくい、顎の関節に音がする、口を開けた時に、顎の関節の回りの筋肉が痛むなどの障害の原因になっています。
2.全身への悪影響が起こりやすい
顎のズレによって、噛む時に一部の筋肉に過度の負担がかかることで、肩こり、偏頭痛、首のこり、耳鳴り、眠りが浅い、ひどい生理痛、生理不順、腰痛など、全身へのさまざまな弊害が現れてきます。
3.咀しゃく障害が起こりやすい
食べ物を十分に噛み砕くことができないために栄養摂取の効率が悪くなり、唾液の効用も十分に利用できなくなり、胃腸を壊したり、消化器系への障害を引き起こしやすくなってきます。
4.劣等感を抱きやすい
歯並びが悪いことにより、大きく口を開けて笑ったり、しゃべったりすることにひけ目を感じて、性格的にも暗くなりがちです。
外国人は、なぜ日本人は手を口に当ててしゃべったり笑ったりするのかと、とても不思議がります。
近年は、芸能人などの影響もあって、欧米並みに歯への関心が高まっているので、深刻に歯並びの悪さを悩んで、コンプレックスになっている人は増えています。
5.発音が正しくできない
奥歯を噛みしめても、前歯が開いてしまう「開咬」の場合は「サシスセソ」などの、摩擦音が出しにくく、英語の発音には特に大きなハンディーとなります。
また、「受け口」の人の発音は、大きく口が開かないために、正常な歯並びの人とは違った独特の発音になってしまいます。
6.顎の成長に異常をきたす
顎の成長が十分に進まなかったり、逆に異常に進みすぎて、顎が未発達になったり、顎がシャクれたり、顔が非対称になったりします。
7.虫歯や歯周病になりやすい
歯並びが悪いと歯の周りに汚れがたまりやすく、又歯ブラシも届きにくくなります。
細菌による歯や歯肉への汚れは、虫歯や歯周病の原因となるのです。
Q.悪い歯並びにはどんなタイプがありますか?
Ans.一口に歯並びが悪いといっても、外見上悪いタイプと、一見きれいに見えるのに、噛み合せ的に悪いタイプがありますが、ここでは、外見的で判断できるタイプを列挙していきましょう。
1.出っ歯(上顎前突)
明石家さんまや久本雅美さんなどがこのタイプで、上の前歯が下の前歯より大きく前に出ている歯並びのことです。
2.受け口(下顎前突)
巨人の松井選手、アントニオ猪木さん、ヤクルトの石井選手などがこのタイプで、下の前歯が上の前歯より前に出ている歯並びです。顎がしゃくれているように見える人はこのタイプです。
このタイプの人のしゃべり方は独特で、あまり口を開けずにしゃべるので、私には声を聞いただけで受け口だとわかってしまいます。
3.乱ぐい歯(叢生)
歯がデコボコしていて、八重歯などになったりしている歯並びで、矯正治療を受けに来院されるタイプでは最も多いのがこのタイプの患者様です。
4.オープンバイト(開咬)
奥歯で噛んでも前歯が閉じないで、隙間のある噛み合わせのことです。
このタイプの人は、発音時に息がもれるため、「サ行」などに発音障害が生じます。
5.顎偏位
下額が左右にズレることにより、上下の歯の中心がズレて合わなくてなってきます。
これは、下額が左右のズレた位置で奥歯が噛み合っているために生じます。
このタイプの人は、片方でしか噛めないとか、片方だけ頭痛や肩こりが激しいということがよく生じます。
6.ディープバイト(低位咬合)
奥歯で噛んだ時に、下の前歯が上の前歯によって半分近く隠れてしまうような噛み合わせのことです。
下の歯が完全に隠れている人もいて、下の歯の隠れ方が多い人ほど問題があります。
これらの分類は、読者に分かりやすくするために便宜的に分けていますが、実際にはこれらのいくつかが重複していたりすることが多く、また、外見上はほとんど問題ないのに、よく調べてみると、噛み合わせに問題があることもよくあるのです。
そのため、ある歯科医院では「きれいな歯並びですね」と言われたのに、他の歯科医院では「噛み合わせに問題がありますね」と言われることが生じるのです。
外見上でのみ判断してしまう歯科医院も多く、機能的な面での診断を下せる訓練を受けていないので、正しい噛み合わせと見た目の歯並びを混同してしまう結果を招いてしますのだと思います。
Q.矯正治療は痛いですか?
Ans.矯正のワイヤーを通じて歯に力を加えれば、歯と顎の骨の間にある、クッションの動きをする歯根膜を圧迫することにより、歯根膜炎という炎症状態になり、痛みが生じます。
この痛みには個人差があるので「すごく痛い」と感じる人もいれば、「軽い違和感程度」と感じる人もいます。
闘値といって、痛みを感じる値には個人差があるのと、歯の初めの状態はそれぞれ違うので、人によって感じ方が違ってくるのです。
一般的には、治療した日から二、三日は、違和感や痛みがある方が多く、それ以後次の治療までの間は普通に生活できます。
一番大変なのは、初めて矯正装置をつけてから一週間は、何を食べてもと言いますか、互いの歯が触れただけで、石を噛んだ時のように感じてしまうことです。
正常な時は、噛む方向にだけ力が加わっていたのが、矯正装置をつけて歯に力を加えることによって噛む方向以外にも力が加わるために、歯が触れただけで痛くなるのです。
これは、新しい方向に力をかける時、それまでゼロだった力が一に変わるときに感じることですが、一から二や三になる時には、初めのように痛みを感じることはありません。
何事も初めの一歩が一番大変なのです。
終わりが近づくにつれて、歯を動かす量も減ってくるために痛みや違和感もほとんどなくなってきます。
痛いといっても歯と歯が触れたときだけですし、歯を抜いたり、歯の神経をとる時のような持続的な痛みではないですから、必要以上の心配はいりません。
Q.矯正器具の名前と使い方を説明して下さい
普通、矯正治療というものはブラケットというメタルか、セラミックの物を歯の表面につけます。
見た目を目立たないようにしたい場合には、セラミックブラケットが優れていますし、欠けたり、取れたりしたくない場合にはメタルブラケットが優れていますが、機能的にはそんなに違いはありません。
後は費用的にメタルブラケットの方が治療代が安くなります。
しかし、このブラケットだけでは歯を動かすことはできません。
このブラケットの中心の溝(スロットと呼ぶ)にワイヤーを通すことによって初めてワイヤーの力で歯が動いていくのです。
メタルブラケット
セラミックブラケット
このワイヤーにも丸いワイヤー、四角いワイヤー、直線状のワイヤー、屈曲されたワイヤーなど、いくつかの種類のものがあります。
これは歯をどう動かしたいかによって使用するワイヤーが違ってきます。
丸いストレートワイヤー
屈曲されたワイヤー
後、補助的な道具として歯を3次元的に動かす為に上下のワイヤーにゴムを引っ掛けて動かすことがあります。
顎間ゴムと呼ばれ下の顎の動きにも作用することになります。
顎間ゴム
ワイヤー(主線)
ワイヤーには、初期頃(○日~三ヶ月目)に装着する物で、形状記憶合金のものを含め、切断するとその形が丸いラウンドワイヤーと、後半期に使用し、矯正治療のメインになる切断面が長方形のレクタングルワイヤーがあります。
ラウンドワイヤーの働きとしては、前後、左右へ平面的に歯を動かす働きをします。
このワイヤーだけで、ぱっと見の歯並びは結構きれいになるものなのです。
レクタングルワイヤーでは、三次元的に、上下も含めて立体的に歯を動かしていきます。
平面的に見た目がきれいになっても、上下の噛み合わせが一致していなかったり、顎のまわりの筋肉の運動と合っていなければ、歯はただの飾り物になってしまうので、このレクタングルワイヤーが矯正治療の主役なのです。
ブラケット
なぜかわかりませんが、患者様はこの装置のことをブリッジと間違えて呼ぶ人が多いです。
ブラケットの真ん中には、ワイヤーより少しだけ大きいスペースの溝があります。
ここにワイヤーを入れて歯を動かしていくのです。
ブラケットの溝がワイヤーより少しだけ大きいのは、多少の遊びがないと歯が思ったより極端に動きすぎてしまったり、それに伴って多くの痛みを発する原因になったりして、治療にいろいろ問題が出てくるためです。
ブラケットの種類には、金属の物、セラミック製の物、レジン製の物などがあります。
外見の問題を除けば、金属製のブラケットが、強度、接着力、ワイヤーとの摩擦関係など、全てにおいて優れています。
バンドのブラケット
矯正治療を始める前に金属やセラミックの被せ歯が入っている歯や、一番奥の歯で、ブラケットが外れたら困る箇所にバンドのブラケットを装着します。
バンドの場合、まず外れることがないので、以前は全ての歯にバンドのブラケットをつけて治療をしていた時代がありましたが、歯に使う接着剤の飛躍的な進歩によって、今はなるべくバンドのブラケットを使うことは避けられ、限られた歯にだけ使用し、極力普通のブラケットを使って矯正治療をするようになっています。
Q.矯正治療の期間は歯科医院によって違うのですか?
Ans.以前、某有名女流作家が矯正治療をして、テレビでそのことについて話をしていましたが、二、三年で治療が終わると言われたのに、結局五年も治療にかかってしまったとグチっていました。
矯正治療は、一般的に、二、三年の治療期間だと言われていますが、実際には五年も七年も治療が続いたという話や、今まで一番長かった人の話では、10年も矯正装置をつけていたという人がいました。
治療期間に差がでる要因としては、治療方法が違うことと、患者様がこちらの指示通りに治療に協力してくれない場合のことがあります。
治療期間が短いということは、患者様からするととても望ましいことですが、治療期間は短いけれど治療結果は不十分、では何の意味もありません。
患者様は、前歯の見た目は自分で理解できますが、正しい噛み合わせに関しては理解できないので、前歯だけきれいにされて、早く治療を終了されたら悲惨です。
ですから、治療期間が短いということがいい治療であるということではないので、十分に気をつけて下さい。
正しい噛み合わせになっているかどうかの目安として、体調の変化を考えてみるのが一番分かりやすいと思います。
治療の終了時に、治療前よりいろいろな不快症状が良くなっている場合は、その噛み合わせが体に正しく適応して機能していると思っていいでしょう。