マウスピース矯正とは
マウスピース矯正とは、いったいどういうものなのでしょうか?
本来、矯正治療というのは、針金を使って歯を動かすものですが、針金だと目立って嫌だという患者様のために、透明なマウスピースによって歯を動かしていく治療方法のことです。
歯というものは、同じ方向に長時間、力をかけていけば必ず動きますから、針金で動かす原理を応用して、マウスピースを装着してもらいながら、歯を動かしていくのです。
マウスピース矯正には正式な呼び方はあるのでしょうか?
日本においては、マウスピース矯正、クリアアライナー、アクアシステム、クリスタル矯正など等、いろんな呼び方で表現されています。
まだまだ、患者様にとっては、なじみの薄い治療方法なので、患者様が理解しやすいように呼んでいるというのが現状でしょう。
呼び方は色々あっても、治療的な考え方は、ワイヤーではなくマウスピースで歯を動かしていくということはどれも同じことです。
針金を使う矯正治療とはどんなことが違うのでしょうか?
一番の違いは、矯正治療中に針金が見えることを患者様がどのように考えていらっしゃるかということが大きな問題になってきます。
アメリカのように、針金を使ってする矯正治療でも、恥かしい事ではなく、誰もがやっている、ごく一般的な治療だと思って、日々、何も引け目に感じることがないのであれば、やはり針金を使った矯正治療法がベターだとは思います。
しかし、針金を使用することが心に引っかかって、矯正治療をちゅうちょしていたり、針金が嫌で、歯を削って歯並びをきれいにする審美治療を選択されるのであれば、人から気付かれにくく、取り外しが可能な矯正治療である、マウスピース矯正はとても有効な治療方法なのです。
昔からマウスピース矯正をされていたわけではないのですか?
長年歯科医師をしていまして、矯正治療のご相談に来られて、結局、最終的に患者様の多くが気にされていることが、やはり治療中の見た目なんですよね。
ワイヤーのみで治療していた時には、見た目さえ目立たなくしてもらえるのならば、今すぐにでも治療を始めたいという患者様は沢山いらっしゃり、本当に申し訳ない気持ちで一杯でした。
私のクリニックは、東京の南青山にある関係上、若い患者様が多く、矯正治療をちょっとでも目立たなくしてほしいという方が多く、そういう方のご希望をかなえたくて取り入れた治療方法なのです。
ワイヤー矯正もされているということですか?
もともとは、私はワイヤー矯正のみで治療していましたが、ワイヤー矯正の考え方を応用して、マウスピース矯正を活用しています。
ですから、患者様の希望によって、ワイヤー矯正とマウスピース矯正を組み合わせた患者様、マウスピース矯正のみの患者様というふうに、治療方法を選択してもらっています。
あくまで、治療の主役は患者様ですから、それぞれの治療方法のメリットとデメリットをお話して、患者様にとって最もいい治療法は何かを考えながらご提案していくことになります。
他の矯正との違い
マウスピース矯正とワイヤー矯正ではどちらが優れているのですか?
矯正治療にはいろんな要因が関係しますから、一概に両者を比較しても意味のないことになりますが、単に治療結果のみから言えば、やはりワイヤー矯正の方が、ダイナミックに歯を動かせるので、軍配が上がるかもしれませんね。
患者様の方がワイヤー矯正でもマウスピース矯正でもどちらでもいいですと言われれば、やはりワイヤー矯正の方をお勧めすると思います。
しかし、ワイヤーの装置をつけるのだったら矯正治療はしたくないという患者様にとっては、マウスピースで矯正治療ができるのはうれしいでしょう。
当クリニックにおいては、ワイヤー矯正を選択された方でも、早めにワイヤーを外して、マウスピース矯正に移行していきますが、双方の治療方法とも、それぞれにメリットとデメリットがありますので、患者様の歯の状況と、治療の際にワイヤーが見えることに対して、どのくらいの拒否感があるかで、どちらの治療方法が優れているかは意見が違ってくることでしょう。
見えない矯正治療といえば、歯の裏側につける舌側矯正をイメージしますが、マウスピース矯正とはどう違うのですか?
従来、ワイヤーの矯正装置が見えるのが嫌だった人で、矯正治療を希望する場合には、舌側矯正が唯一の治療方法と考えられていました。
この舌側矯正治療は外側から装置が見えないという点では、一番優れている方法なのですが、喋り難さにおいては、最も喋りにくい治療方法なのです。
矯正治療を開始してから1、2ヶ月は舌が傷だらけになってひりひりして痛みによって、食事や会話がとてもしづらくなってしまうために、普通の社会生活をしていく際に、支障をきたすという大きな欠点がありました。
そしてまた、舌側矯正の多くの症例において、小臼歯(前から4番目の歯)を抜いて治療していかないといけないという点が、どうしても私には引っかかっていました。
その点、マウスピース矯正の場合には、歯を抜かないで治療できますし、しゃべる時の違和感も舌側矯正と比べるとかなり少ないものなので、社会生活をおくる上でも大きなメリットになります。
しゃべる必要のある人でもマウスピース矯正は行えます?
マウスピースを装着して、2,3日はしゃべる時に少しの違和感は感じると思いますが、入れ歯の人が入れ歯を使い始めてしばらくすると普通にしゃべれるのと同じように、マウスピースがあることを脳と舌が覚えて慣れてくれるので、遅くても1週間もすれば、今までのしゃべり方と同じようにしゃべれるようにはなります。
どうしても大切な仕事やデートの時には、マウスピースを外してもいいですか?
マウスピース矯正の原則は、ブラッシングの時以外には、ずーと装着していただきたいのですが、どうしても大切な仕事や、お見合いの時など、やむをえない場合には、取り外していただいても結構ですが、ワイヤー矯正と違って装着していてもそれほど人の目を気にする必要はないかもしれません。
1日のうちでどれくらい装着すればいいのですか?
基本的には、矯正治療は24時間同じ方向に弱い力で動かしていくものなので、原則的には、ブラッシングのとき以外には、出来るだけ長い時間つけていただくことが望ましいです。
何時間以上装着しなければ、歯は動かないということは、はっきりとは線引きできませんが、装着したりしなかったりしていたのでは、治療期間が延々と延びてしまうことだけは確かでしょう。
せっかく動いた歯が、マウスピースをするのをサボることによって元のように戻ってしまうということですか。
歯を動かすことは大変で、とても時間がかかるのに、せっかく動いた歯が、マウスピースの装着をサボることによって、簡単に元のように戻ってしまうものなのです。
特に歯がねじれて回転しているような歯は、いったんきれいに並べても、そのまま放っておくとすぐにまた元の方向に回転して戻ろうとしてきます。
とにかく、マウスピース矯正は取り外しが出来るのがメリットでもあり、デメリットでもあります。
といいますのも、ワイヤー矯正では、一旦針金をつけてしまうと、患者様自身で取り外すことが出来ないので、ある意味時間がたつのを待つしかありませんが、マウスピース矯正では、自分で取り外しが出来る分、きちんと使い続ける意志の強さが必要になってきます。
分かりやすくたとえますと、食べ物の少ないジャングルで痩せることには、自分の意思に関係なくやせていきますが、食べ物の豊富にある日本でダイエットをすることには強い意志が必要なのと似ています。
痛みと食事
マウスピースを装着するとどんな感じがしますか?
マウスピース矯正は、マウスピースが特定の歯に一定の方向の力を加えますので、動かそうとする歯が圧迫される感じがします。
そして、動かそうとする歯の周りは少しきつく締め付けられる感じがします。
この感覚は、新しいマウスピースを装着直後にあり、時間とともに歯が動いてくるとすぐに慣れてきます。
締め付けられる感じは、24時間感じるのですか?
いいえ。新しい装置を入れて数時間だけ感じ、それ以降は、取り外しと装着する際にだけ圧迫感を感じます。ですから、一日装着してしまえば、装着している時には、殆んど圧迫感も感じなくなります。
そして、取り外しの時の圧迫感も、日に日に弱くなってきて、すぐに感じなくなってきます。
マウスピース矯正では、歯を抜かないといけないのですか?
私は今までに、ワイヤー矯正を行っていく際にも、一貫して歯を抜かない非抜歯矯正治療を行ってきました。
今までも、自分の診療体系に、いろんな治療方法を取り入れる際にも、歯を抜かないということは最優先して考えてきました。
このマウスピースによる矯正治療も、歯を抜かないで治療することがメリットの1つでもあります。
歯を抜いてまで矯正するということが、私の中ではどんなメリットがあろうと、そのメリット以上にデメリットの方が多いように感じてしまいますので、私は矯正治療において歯を抜くということは決してありません。
そんなに痛くないのですね?
患者様からすると、歯を抜かないのか、痛くないのか、治療代はトータルでいくらなのかといったことは何度聞いてでもはっきりしておきたいことだと思います。
その気持ちは、患者様なら誰もが持っていることでしょう。
マウスピース矯正において、少しの痛みや違和感を感じるのは、主にマウスピースの着脱の時です。
マウスピースをつけるときには、ある位置まで歯を動かそうとする力が働きますので、当然、歯に圧迫感を覚えます。
逆にマウスピースを外すときには、今まで力がかかって動かされていた歯が、力を解放されて元の位置に戻ろうとしますから、ジワーッと開放感があって、その状態で食事などをすると少し痛みを感じます。
ですから、一旦、マウスピースを装着してしまえば、案外、痛みを感じなくなるものなのです。
マウスピース矯正のメリットのひとつに、ワイヤー矯正よりも痛みが少ないことがあげられると思います。
食事は普通に食べられますか?
マウスピース矯正の場合には、食事中にはマウスピースを外すこともできますから、食事はしやすく、食事のブラッシングも普通に行えます。
しかし、矯正中は、歯がぐらついている状態なので、ぐらついた歯で硬い物を噛む事に多少の恐怖心があるかもしれません。
ワイヤー矯正の場合には、歯自体は同じようにぐらついていても、全ての歯をワイヤーで固定している状態なので、一本一本の歯のぐらつきを実感することがない分、硬い物でも思い切って噛むことができるでしょう。
マウスピース矯正の場合には、食べ物がワイヤーの回りに残ったりするようなことはありませんが、思い切り噛み切るという点においては、ワイヤー矯正の方が少しは有利かもしれません。
マウスピースをつけたまま食事をしたり飲み物を飲んだりしてはいけませんか?
マウスピースをつけたまま食事をしてもかまいません。
ただ、水などの飲み物に関しては、装着したまま飲んでもらって結構ですが、飲み物に糖分が含まれているものですとマウスピースの中に糖分が停滞しますと、虫歯になる可能性が出てきますので、糖分を含むような飲み物を飲まれるときには、なるべくマウスピースを外して飲んでいただき、飲んだ後には軽くでもうがいをすることをお勧めします。
マウスピースが壊れるようなことはあるのですか?
マウスピースは、薄いプラスチィック製の物なので、長い間使用していれば、壊れることもありますが、歯を動かすマウスピースは、1~2週間ごとに交換していく物なので、その間に壊れる可能性は殆んどないといっていいでしょう。
マウスピースを使ったり、使わなかったりする場合に壊れることが多いです。
どちらかというと、壊れる心配よりも、マウスピースをなくす心配の方が多分にあります。
例えば、外食の際に、マウスピースを外して食事していて、ティッシュか何かにくるんでおいて、食後に装着するのを忘れてしまい、席を立って数分して置き忘れたことに気づいて戻ってみたら、すでにゴミ箱に捨てられていたということはよくあります。
取り外しが出来るということは、なくす心配もあるということなんですよ。
治療費と期間
マウスピースは他人から絶対に気付かれない物なのですか?
マウスピースは透明色ですが、他人から100%気づかれないという物ではありません。
金属のブラケットやワイヤーが入っているような感じとは全然違いますが、逆に何か白い物が口の中にあるなとか、薄いマウスピースが入っているなということは分かってしまう場合もあります。
もちろん針金よりは全然目立ちませんけど・・・。
マウスピース矯正は、一切見えないという物ではないので100%人から気付かれたくないのであればやはり裏側からの舌側矯正が一番かもしれません。
しかし、舌側矯正には、前から見えない代わりに、小臼歯を抜いたり、とても喋りにくいという欠点がありますので、何を優先するかで、患者様によっての選択される治療方法が違ってくると思います。
しかしまずマウスピースに気付く人の方が断然少ないでしょう。
マウスピース矯正の治療期間はどれくらいかかりますか?
当クリニックにおいては、ワイヤーを使用する従来の矯正治療では、治療期間は殆んどの場合で1年前後で終了しますので、治療前にかなり正確に治療期間を予測できます。
しかし、ワイヤーでの矯正と違って、マウスピース矯正の場合には、患者様自身でマウスピースを装着していただく必要がありますので、患者様の協力度によって治療期間も大きく違ってきます。
また、それぞれの患者様の歯並びの状態によっても、動かす歯の移動量も違ってきますので、1律で治療期間を言うことは出来ませんが、マウスピース矯正で前歯だけの部分的な矯正治療なら半年~1年ぐらいです。
マウスピース矯正の治療費は高いのですか?
ワイヤーを使った一般的な矯正治療では、その患者様の治療前の状態から治療期間や使用する器具などから、患者様によって治療代が違ってきます。
一方、マウスピース矯正の場合には、治療前の状態から、治療後の理想の状態になるまでに、何個のマウスピースを作るかということで、治療代に差がでてきます。
ですから、沢山のマウスピースを作って歯を動かしていかないといけない場合には、自ずとその人の治療代は、少し高くなってきます。
目安的には白いブラケットをつけて歯を動かす場合より少し高いくらいの料金だと思っていただければいいと思います。
マウスピース矯正が特別高い治療ではありません。
マウスピースのお手入れ方法はどうですか?
マウスピースのお手入れ方法は、基本的には水で洗い流していただければ結構ですが、マウスピースの汚れがひどい場合には、ポリデントなど市販の入れ歯洗浄剤で洗っていただけるときれいになります。
通常、歯を動かすマウスピースは、1~2週間ごとに新しい物に交換していきますので、その間だけきれいに保たれていればいいのですから、お手入れはそれほど神経質になる必要はありません。
ですから、普段は水洗いしていただき、汚れがひどくなったら入れ歯の洗浄剤で洗うようにしてください。
アフターケア
歯が動くということは、どんな感じがするのですか?
歯が動いてきますと、手で歯を揺らした時に、少し揺れているのが自覚でき、今までデンタルフロスをされていた方は、フロスを入れるときの「パチン」というのがなくなり、何の抵抗もなくスーとフロスが入り、あちこちの歯の間にすき間ができてきます。
歯がきれいに並んだ後にも何かすることがありますか?
マウスピースで歯を動かしてきれいな歯並びになった後は、歯が動いて元のように戻らないようにしなくてはいけません。
せっかく苦労して歯並びをきれいにしたのに、アフターケアを怠ると、歯という物はあっという間に元のような歯並びに戻ってしまうものなのです。
そういったことのないように、きれいな歯並びになった後には、リテーナーといって歯が元のように戻らないようにするための装置を入れてもらいます。
リテーナーとして、マウスピースを使っていただく方法と、歯の裏側から歯科用の接着剤で固定する方法があります。
マウスピースを使っていただく方が、歯のお手入れも簡単ですし、奥歯の方まで固定できるのでお勧めしています。
リテーナーとしてのマウスピースはとても薄くて、見た目にも違和感も歯を動かすマウスピースよりもさらに快適な物になります。
一生マウスピースをすることになるのですか?
そんなことはありません。
リテーナーは、歯の後戻りの状態をチェックしていきながら、徐々に装着時間を減らしていきます。
リテーナーの取り外しの時期というのはケースバイケースで、何ヶ月たったら絶対に大丈夫というものではないので、しばらくは定期的にチェックをした方がよいと思います。
治療が終了した当初は、歯並びがきれいになっても安心せずに、なるべく長い時間リテーナーを装着してもらい、そのうちに夜寝ているときだけつけてもらうように移行していきます。(平均2~3年)
そして、そのうちリテーナーの装着を2日に一度にしても歯が動いてないようなら、3日に一度装着するようにします。
こうして、徐々に間隔をあけていって、1週間に1度くらいしか装着しなくても、歯が動いている様子がないようならば、もうリテーナーを装着しなくても歯は動かないでしょう。
このように、きちんとアフターケアーをすることによって、きれいな歯並びを長期間維持していくことが出来るのです。
昔の人の言われたことわざに「99里をもって半ばとせよ」という気持ちが矯正治療においてもある意味、当てはまっているようにも感じます。
マウスピース矯正をする医院を選ぶ際にはどういうことに気をつければいいですか?
ワイヤーで歯を動かすか、マウスピースで歯を動かすかというのは、治療方法の選択肢の1つであるので、その治療方法を取り入れているか、取り入れていないかは医院によって違ってくると思います。
マウスピース矯正を行っている矯正医院の中からどこかを選択する際に重要なことは、きちんとワイヤーテクニックの矯正知識のある医院を選ぶべきです。
具体的に言いますと、噛み合わせの考えがしっかしていない医院では、どんな方法で治療したとしても、正しいゴールにはたどり着かない可能性があります。