監修:青山健一
はじめに
多くの患者さまにとっては、出来るだけ「早くて、安くて、簡単に」矯正治療を終えたいと望まれています。
その一方、本当に満足できる出来栄えなのか、自分の場合でも部分矯正で矯正治療が可能なのか??という疑問を持ちながら、無料相談にご来院される方が多いです。
そういう方のために、「部分矯正が可能かどうか?」ということに焦点を当てて解説していきましょう!
目 次
Q 部分矯正で治療ができないのはどんな場合ですか?
A 部分矯正の欠点は、すべての方に対してその治療を適用できないことです。
例えば、出っ歯の大きい人、受け口の人、歯並びのデコボコがひどい人、噛み合わせを治したい人、上下前歯のスペースの関係において余裕がない人などは、部分矯正では治せないケースがあります。
奥歯の噛み合わせは、上下、左右、前後の関係があります。噛み合わせの治療では、噛んだときの顎の安定を目的にしますので、関係するすべての歯を動かすことになります。
部分矯正は前歯だけの美容的な治療法なので、奥歯の噛み合わせの改善にはつながりませんが、統計的にも、矯正治療を受ける方の約9割が美容目的となっています。
☆部分矯正が適さない例
・前歯が重度のデコボコの場合
例)
部分矯正はデコボコを治す為に、歯の表面を削りながらスペースを確保します。歯を削っても支障が出ない範囲で留めようとすると、デコボコが大きすぎる場合は部分矯正では改善しきれません。
・受け口の場合
・開口の場合
例)
奥歯で噛んだ時に、前歯に上下的な空間が空いてしまう噛み合わせを開咬と言います。開咬は奥歯の噛み合わせの問題なので、前歯のみの局所的な治療では改善する事ができない場合がほとんどです。
・下の歯並びとの関係で、上の出ている前歯が中に入れられない場合
・下の前歯だけの治療の場合は、上の前歯だけの治療よりも不可能な場合が多い
・部分矯正治療に全体矯正並みの過度の期待をされている方の場合
Q 以前に歯の神経をとっていても矯正治療は可能ですか?
A 歯の神経をとっていても、歯の根っこが自分の歯である限り矯正治療は可能です。
インプラントの歯の場合には、完全に骨と一体化していますので、矯正治療では歯は動きません。
ごくまれに、歯の神経の代わりに詰める薬の影響で、歯の根っこの部分とあごの骨の部分が癒着していしまっていますと「歯根癒着」といって、歯がインプラントのように一体化している場合は矯正治療でも歯が動かない場合があります。
根の治療をした歯(下記左図)は、骨に直接埋入するインプラント(下記右図)のように骨と一体化(癒着)してしまう場合が稀にあります。
パントモでの失活歯とインプラント
Q 差し歯ですが矯正できますか?
A インプラントでない限り、歯の根っこが自分の歯であれば、矯正は可能です。
Q 部分矯正のメリットとデメリットは?
A
☆前歯の部分矯正のメリット
- 患者さまの痛みや違和感が劇的に少ない
- 治療期間が短い(六カ月前後)
- 全体矯正よりも治療費がかからない(全体矯正の二分の一~四分の一)
- 歯を抜かない
- ワイヤーが目立たない
☆前歯の部分矯正のデメリット
- 一般的に言って、全体の矯正より出来上がりは劣る場合が多い
- 前歯のエナメル質を多少削る
- 妥協する点が発生する場合がある
- 出っ歯は、比較的治りにくい場合が多い
Q 部分矯正か全体矯正か、どちらの治療がいいかを判断する基準はどんなことですか?
A
1.前歯のデコボコの程度
全体の矯正では、奥歯から歯を動かして治しますので前歯を大きく動かせますが、前歯だけの矯正の場合には、前歯を削って動かすスペースを確保しますので、すべての症例で自由自在には動かせません。
2.悩みの深さ
美容目的で矯正治療を希望する場合に、その人の悩みの深さで、どちらの治療のほうがいいかが違ってきます。
分りやすく言えば、同じ歯並びだったとしても、今よりもよくなればいいと思っている方と、歯並びに対するコンプレックスが強く、手で口を押さえるくらい気にされている方とでは、治療に期待するレベルが違ってきます。
悩みが深い方には、より完璧な出来上がりである全体矯正をお勧めしますし、そこまで悩みが深くない方には、部分矯正をお勧めします。
矯正治療は、患者さまの悩みやコンプレックスを解消するための治療でもあるので、より簡単に患者さまの悩みが部分矯正で解決できるのであれば、それに越したことはありません。
3.出来上がりのイメージ
患者さまは、嫌な矯正装置をつけて高いお金を払って治療する以上、治療結果に何らかの期待を持って来院されます。
ある意味、歯医者は患者さまの思い描く理想のイメージとの闘いとも言えます。
患者さまのイメージを超えた治療結果を出すことで、歯医者は患者さまから満足してもらえますが、患者さまのイメージを超えられなかったときには、患者さまから不満を言われ、苦情を言われる結果になってしまいます。
そういう意味では、患者さまの治療後のイメージに対する期待が高い場合には、全体的な矯正で、より完成度の高い治療を提供する必要があります。
一方、患者さまがそんなに高望みをしていない場合には、部分矯正をお勧めすれば、部分矯正治療の多くのメリットに対して患者さまから喜ばれるでしょう。
今までの歯医者は「歯を見て患者を見ず」と言われていましたが、どちらの治療が患者さまのためになるかは、患者さまと十分にお話をすることで自然と導き出されてくるのではないでしょうか。
☆部分矯正の難しさ
部分矯正の治療は治療経験を重ねていけば技術的にはそれほど難しいことではありませんが、診断とインフォームドコンセント(説明と同意)が難しいと言えるでしょう。
部分矯正と全体矯正のどちらが適しているかを適切に診断し、それぞれのメリットとデメリットを患者さまの立場に立って分かりやすく説明できるかどうかが問われます。
説明する人のコミュニケーション能力が低いと、矯正治療後に「言った」「言わない」のトラブルになりかねません。
治療説明が不適切なら、患者さまは、部分矯正でも、全体矯正でも、仕上がりの歯並びは同じだと思ってしまいます。
二つの治療法の違いを事前にきちんと伝えておかなければ、治療後の患者さまの満足度は低くなり、トラブルの原因にもなります。
部分矯正は地域によってはまだあまり普及していない治療方法なので、メリットとデメリットについて、事前に十分な説明を聞いておくことが大切です。
後々後悔しないためにも、治療前に歯科医とよく話し合ってください。
どこを治したいのかを明確にし、部分矯正の治療を正しく理解し、治療方法や治療結果についてどこまでなら妥協できるかをはっきりさせた上で、どの治療法にするのかを決断することが大切です。
☆まとめ
患者さまから「私の歯並びは、部分矯正で治療できますか?」と質問されることが多いです。
その場合に「部分矯正で治療可能です!!」と言い切れるケースと、「部分矯正で治療は可能ですが、その仕上がりに満足されるかどうかは患者さまの期待値によって違います」と慎重に判断していただかないといけない場合もあります。
部分矯正治療が美容的な目的で行っていく治療である以上、部分矯正で治療できる限界によっては、妥協しなくてはいけない仕上がりになることも少なくないので、そのあたりの行き違いがないように、矯正治療前に十分に話し合って治療を決定していくことが大切になってしまいます。
症例を選べば部分矯正はすごくいい治療方法なので、矯正相談では、満足いくまで十分話し合ってくださいね。