監修:青山健一
はじめに
部分矯正がかなり普及してきていますが、矯正治療は一生に一度の治療なので、多くの患者さまにとっては、虫歯治療やデンタルクリーニングのような知識を持っていない方が大半だと思います。
そこで、部分矯正を考える人が知っておいてほしい基本的な知識を述べていきたいと思います。
目 次
1、部分矯正のメリットと特徴
部分矯正の治療方法
従来の矯正治療は、奥歯を含めて上下すべての歯を動かしていましたが、患者さまの中には、「前歯だけ治ればいい」と考えている方が少なくありません。
こうした治療を希望される患者さまの中で、前歯のデコボコがそんなにひどくない方には「部分矯正」治療は大変喜ばれる治療法です。
部分矯正の治療方法を簡単に言うと、デコボコの前歯を前方に並べ替え、少し削って中に入れるということです。
多少の出っ歯の方ならば、前歯を少し削って歯が出ないようにすることが可能です。
ただ、それにもある程度の限界があります。
前歯を削るのは、前歯の横の隣接面のエナメル質の一部を少し削る治療法なので、痛みを感じることはありません。
歯を削ると歯が弱くならないかという質問も受けますが、削るのはエナメル質のほんの一部なので、それぐらいで虫歯になったり、歯の寿命が短くなったりすることはありません。
全体矯正と部分矯正のメリット・デメリット
「全体矯正」と「部分矯正」の治療には、それぞれどちらにもメリットとデメリットがありますので、それらを説明したうえで、自分にはどちらの治療方法が適しているかを患者さま自身に判断していただくことになります。
全体矯正ではすべての歯を動かしますので、治療結果がより理想に近くなります。奥歯も動かしますので、噛み合わせの改善も期待できる利点もあります。
一方、「部分矯正」は前歯だけの矯正なので、治療期間が短く、治療費が安く済み、痛みや違和感などがかなり少ないというメリットがあります。
部分矯正で治療できれば一番いいのですが、歯のデコボコが大きい人は、残念ながら「部分矯正」ができません。
その理由は、「部分矯正」の治療法では、デコボコになっている前歯を前方に一列に並べ替える治療をしますので、デコボコの程度が大きい人の部分矯正は出っ歯になってしまうからです。
いくら「早くて安くて簡単」でも、出っ歯になるのはみなさん嫌ですよね。
2、審美治療との違い
審美治療のデメリット
歯を削る審美治療には、神経を抜いたり象牙質まで大きく歯を削ったりすることで、歯の寿命が短くなるというデメリットがあります。
私自身、審美治療をメインにしている審美歯科クリニックに勤務していた時代もあり、これまでに多くの方々の審美治療にかかわってきました。
こうした治療で確かに見た目はきれいになりますが、患者さまの歯を削るたびに歯を壊しているようで、何か心の中に引っかかるものがありました。
私のほうから一方的に審美治療を勧めることは決してありませんが、ワイヤーによる矯正治療は嫌だということになると、以前は審美治療しか選択肢がありませんでした。
部分矯正によって審美治療のデメリットを回避できるように
しかし、部分矯正の出現によって、かなりの方が歯を削る審美治療を回避できるようになってきたのです。
審美治療と部分矯正治療とでは、治療内容が全く違います。審美治療では、麻酔をして歯の神経を取り、歯のほとんどの部分を削ることになりますが、部分矯正治療では、麻酔をしなくても痛みを感じないエナメル質の一部分を削るだけです。
審美治療で歯を削る場合は、神経とエナメル質がなくなりますので、10年、20年もすると歯が弱くなってきます。
一方、部分矯正の場合は歯の神経もあり、エナメル質も残っていますので、歯の寿命が短くなるということはありません。
部分矯正の超基本的な質問集
Q 歯の表面にはどうやって矯正器具をつけているのですか?
A スーパーボンドとかコンポジットレジンと呼ばれる、口の中で使用する歯科用の専用接着剤で、セラミックや金具を装着します。
歯科用の接着剤ですから、唾液の影響を受けにくく、体に害のないものを使用しています。
Q 前歯だけの矯正の場合、矯正器具は前歯だけにつけるのですか?
A 動かす部分にだけ矯正器具をつけます。ほとんどのケースで八重歯から八重歯の6本に矯正器具を装着します。
矯正器具を付けない奥歯では今まで通り噛めるので、全体の矯正に比べて食事の違和感がほとんどありません。
Q 通院はどのくらいの間隔になりますか?
A 治療間隔が短かすぎると歯に負担がかかりますので、矯正治療は歯に負荷をかけて回復するのを待つのに、大体3~4週間に一度の割合の通院になります。
Q 通院するたびの治療内容は?
A 歯の動きによって、形状記憶ワイヤーの張力を弱いものから少しずつ強いものに替えていきます。
Q 歯はどうやって動くのですか?
A 一定の方向にワイヤーなどの持続的な力を加えることによって、押された歯の部位が貧血状態になって破骨細胞という歯槽骨を溶かす細胞が集まります。
その一方で、押された反対側の部分には、歯槽骨を新たに作る造骨細胞という細胞が出現します。
こうして矯正中は歯がぐらぐらしながら動いていくことになりますが、矯正を終了して歯に力をかけなくなれば、再び骨が作られ始め歯が固定されてきます。
Q マウスピース矯正って何ですか?
A 歯列矯正治療はワイヤーで歯を動かすのが一般的ですが、ワイヤーを使わないで、透明なマウスピースによる歯列矯正治療を行う方法もあります。
この治療方法は、すべての患者さまに適応できるわけではありませんが、他人に気づかれないできれいにしたいと希望する患者さまにとっては、画期的な治療法です。
この治療法のメリットは、なんといっても透明なマウスピースなので、他人に気付かれないで矯正治療を進めていくことができ、食事やブラッシングのときに外せるので、口の中を衛生的に保つことができます。
一方、デメリットは、受け口や重度の症例の方には適用できないことと、患者さまがきちんと装着し続けなければ、正しく歯が動かないので、患者さまの協力度合いで治療の成功が左右されることや、根本的な噛み合わせの治療を希望されている患者さまには適応できない場合もあることです。
Q マウスピースとワイヤーでは歯の動きにどんな違いがあるのでしょうか?
A 歯のねじれをとっていくときには、24時間装着しているワイヤーのほうが歯の動きが早いのですが、歯を中に入れていったり、特定の歯だけ微妙な動きをさせる場合には、マウスピースの方が優れています。
歯の動きだけ考えれば、ワイヤーでデコボコを解消して、マウスピースで細かい部分を修正していく、というのが一番効率のいい動かし方だと思います。
Q 部分矯正が適した年齢層はありますか?
A 部分矯正を希望される方の多くが社会人です。矯正で歯を抜くことに抵抗感があったり、治療期間も長く治療費が高いことで矯正治療を諦めていたものの、部分矯正の存在を知って、今までよりも「早く、安く、簡単」に治療できるのであれば矯正治療を受けたいということが、社会人の方にとっての治療を希望される最大の理由だと思われます。
☆まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は部分矯正の基本的な知識をお話ししていきましたが、大体のイメージができて、もっと詳しく知りたい方は、他の記事等もご参照ください。
部分矯正は、治療内容をきちんと理解されていれば満足度の高い治療ですが、安易に治療を受けますと「言った、言ってない」「聞いた、聞いてない」という行き違いが生じやすい治療なので、矯正前に十分納得されたうえでの治療をお勧めいたします。