監修:青山健一
はじめに
今、患者さまの多くが「部分矯正」を希望してご来院されます。
10年前には考えられなかったことです。
10数年前には「部分矯正って何??」という時代で、ほとんどの医院では全体矯正しか行っていませんでした。
歯科大学でも、全体矯正しか教えていませんでした。
それが今では、「部分矯正しか考えていない!」という患者さまも少なくありません。
そこで今回は、部分矯正についてのこれまでの流れと、部分矯正についての全体的な内容をお伝えしていこうと思います。
目 次
1、部分矯正を行うきっかけ
今では部分矯正を希望される患者さまのほうが多く
私は矯正治療を行って25年以上になります。
部分矯正を取り入れたのは10年ほど前からですが、それ以前は100%全体矯正だけを行っていました。
当時は「部分矯正」という言葉自体、世間では知られていませんでした。
それが今では全体矯正よりも部分矯正を希望される患者さまのほうが多くなってきました。
「部分矯正」の希望で治療相談に来られても、デコボコがひどいため、全体矯正に変更される方もいらっしゃいますし、またその逆で、当クリニックで初めて「部分矯正」を知って、「部分矯正」に変更される方もいらっしゃいます。
部分矯正を手がけることになったきっかけは?
私が部分矯正の治療法を手がけることになったきっかけは、十数年前に「インビザライン」というマウスピース矯正がアメリカで流行っているという話を聞いたことです。
その当時、インビザラインは日本ではまだ認可されておらず、情報がとても少なかったのですが、情報を集めていくうちに、歯の隣接面を削って歯並びをきれいにしていることが分かりました。
長年、矯正治療とは全部の矯正を行う治療であって、部分矯正を否定的に思っていた私には、歯の隣接面を削って歯並びを治すという治療に対して「そんなことをしてもいいの?」という疑問がありました。
マウスピース矯正に可能性を感じ
しかし、実際に、インビザラインの矯正治療を受けた人の歯並びを見て、マウスピース矯正に可能性を感じ、早速、当クリニックでもマウスピースでの矯正を取り入れました。
その後部分矯正の症例を選びながら、少しずつ適応範囲を広げていったのですが、何よりも、患者さまからの喜びの声が私の背中を後押ししてくれました。
全体矯正の患者さまと比べると、部分矯正治療の患者さまの喜ばれ方は半端ではありません。
全体矯正の治療のほうが出来上がりの完成度は高いのに、部分矯正治療のほうが満面の笑みを浮かべられる――「これはいったいどういうことだろう??」と考えてしまいました。
こんなに早く、安く、簡単にここまで治るの!?
そして私がたどり着いた答えは、全体矯正は部分矯正よりも治療結果は優れていても、痛み、違和感、治療期間、治療費など、患者さまの負担や苦痛は部分矯正とは比べものにならないくらい大変だということです。
一方で、部分矯正は「早く、安く、簡単」に終了するにもかかわらず、適応できるケースを適切に選択すれば、治療結果に不満が残ることはそれほどありません。
大変な思いをしたら、その分、期待値も高くなるものですが、部分矯正の患者さまは、こんなに「早く、安く、簡単」にここまで治るの!?ということでびっくりして感動されるのでしょう。
2、部分矯正に力を入れて気付いたこと
「部分矯正をもっと普及していこう」という信念に
以前の私は、部分矯正は全体矯正より劣った治療方法であるような先入観があり、導入当初は部分矯正を患者さまにあまりお勧めしませんでした。
しかし、治療後の患者さまの喜ばれる顔を見るにつれて、適応症例さえきちんと選択できれば、部分矯正は全体矯正に勝るとも劣らない治療方法であるという確信を抱くようになりました。
今では、自信を持って患者さまにお勧めしています。
部分矯正の結果に満足して喜ばれる患者さまが増える実績とともに、矯正医は患者さまの立場に立って治療方法を提案すべきだということが確信に変わりました。
患者さまの喜ばれる顔を見ることが私自身の一番の喜びでもありますから、部分矯正で喜んでいただけたことで、「部分矯正をもっと普及していこう」という信念に変わってきました。
「部分矯正の治療があったおかげで矯正することができ、満足ゆく結果が得られた」
「早く、安く、簡単」に矯正治療ができることが広く知られれば、矯正する人はもっと増えるでしょう。
当クリニックでは、「矯正治療を諦めていたけれど、部分矯正の存在を知って、思い切ってやってみることにした」という方が少なくありません。
今まで、治療費がトータルで100万円以上かかること、治療期間が長いこと、歯を抜いたりして治療が大変なこと、治療中の痛みに耐えられるか心配……などの理由で矯正治療を諦めていた方が、「部分矯正の治療があったおかげで矯正することができ、満足ゆく結果が得られた」という言葉を聞くことは、何よりも嬉しいことです。
「部分矯正」の存在を知らない方がまだまだ多いのですが、「多くの矯正医院では、なぜ「部分矯正」を扱っていないのでしょうか?」という質問も多く受けます。
それは、これまで大学では「矯正治療とは噛み合わせも見た目もすべてを治すことだ」と教えられてきたことがあります。
審美治療ではなく部分矯正という選択ができるように
前歯だけきれいにしたい人は、審美治療といって、歯を抜いたり歯の神経を取り除いたりして差し歯にして歯並びを変えていました。
プロ野球の選手やテレビに出ている芸能人などがよくしている治療方法です。
矯正治療によるワイヤーを装着することを受け入れられない人や、手っ取り早く見た目だけをきれいにしたいと考えている人は、これまでは歯を削って歯並びを変えていました。
前歯だけが気になるという方も、これからは歯を抜いたり歯の神経を取ったりする「審美治療」ではなく、「部分矯正」という選択ができるようになってきたのです。
3、部分矯正の完成度と満足度(部分矯正 vs 全体矯正)
美容目的で部分矯正を受ける場合、矯正前の歯並びの状態によっては、患者さまのイメージ通りに仕上がる方もいれば、かなり妥協しなければならないケースもあります。
私は今まで1万症例近い患者さまを見てきましたが、その経験に基づいて仕上がりのイメージを事前に説明しています。
出来上がりは全体矯正のほうが勝っているのに、部分矯正の方が喜ばれる理由とは?
噛み合わせ不良による体の不調を治すことが目的の場合には全体矯正になりますが、美容目的の方には、部分矯正の限界を理解していただいた上で治療をしますので、部分矯正をされた方の多くが「早く、安く、簡単に」治ったということで大変喜ばれます。
歯科医の目から見れば出来上がりのレベルは全体矯正のほうが勝っているのに、患者さまご自身の満足度は部分矯正のほうが高いのです。
全体矯正をする人は、一般的には1年から3年近くも大変な思いをして我慢しなければなりません。
その分、治療費も高くなります。
一方で、部分矯正はほとんどの場合で、治療が6カ月前後で終わります。
治療費も、全体矯正の4分の1から半分で済み、痛みも少ないとなれば、従来の矯正のイメージよりも「早く、安く、簡単」に治るので、かなり得した気分になって満足度も高くなると思います。
部分矯正についてのQ&A
Q 前歯だけの部分矯正と全体的な矯正で仕上がりに違いがあるのでしょうか?
A 基本的には、全体矯正のほうが仕上がりは優れている場合が多いです。
治療前の歯並びのデコボコ程度にもよりますが、前歯だけの矯正の場合には、全体矯正の場合よりも歯が少し出気味になるので、歯の隣接面を少し削ることで修正していきます。
Q 部分矯正に適した年齢はありますか?
A 乳歯の部分矯正はできませんが、大人の歯が生え揃っていれば、何歳でも部分矯正は可能です。
歯を少し削ることが必要な治療なので、できれば、完全に成長した大人のほうがより好ましいです。
Q 部分矯正ではどんな装置を使うのですか?
A
①歯の表面にワイヤーを約三カ月ほどつけ、その後マウスピースを二~三カ月装着する方法
②歯の裏側にワイヤーを約四~六カ月ほどつけ、その後マウスピースを二~三カ月装着する方法
③マウスピースのみで歯を動かす方法などがあります。
Q 部分矯正はなぜ治療期間が短いのですか?
A 前歯の根っこは鉛筆のように一本ですが、奥歯の根っこは、机の脚のように二~四本あり、よりがっしりしています。
歯茎の中の根っこがしっかりしているかどうかで、同じワイヤーの力でも動きやすかったり動きにくかったりします。
全体矯正の場合には、奥歯から動かすので、矯正の治療方法によって1年から3年ぐらいまで治療期間がかかる場合があります。
特に、抜歯して矯正する場合は、歯を抜かない矯正よりも治療期間が長いです。
Q 矯正治療の流れを教えてください
A
①ホームページなどから矯正の情報収集
今では知りたいと思うことについては、インターネットによってたいていの情報は得られるようになり、矯正治療に関する情報もインターネットを見ればほとんどのことが分かります。
有意義な矯正相談をするためには、相談前に大まかなイメージを持ち、事前に知りたいポイントをはっきりさせてから、矯正の相談に臨むのが好ましいです。
②矯正相談
希望する治療方法、治療結果、治療費などのイメージをより鮮明にさせる。
③精密検査(模型、写真、レントゲン)
正確な資料を集めて、最終的な診療方針を立てる。
④矯正前準備
歯のクリーニングをしたり、虫歯チェックをする。
⑤矯正開始
⑥矯正終了(保定開始)
Q 治療費の大体の目安はどのくらいですか?
A 初めの歯並びの状態や使う装置によって金額に幅はありますが、片顎で25~30万円ぐらいの幅の人がほとんどです。上下ではその二倍の金額になります。
☆まとめ
いかがでしたでしょうか?
部分矯正、インビザラインなど、数年前にはあまり知られていなかった治療法が、今ではメジャーになっていることに時代の移り変わりを感じてしまいます。
最新の治療がすべていいわけではありませんが、それぞれの治療のメリットとデメリットをきちんと理解されたうえで、自分に適した矯正方法を選択されることをお祈りしています。